SCENE1 診療報酬と病院経営のしくみ! 診療報酬と病院経営、管理の関係

 病院の経営は診療報酬点数表の呪縛から逃れられない。病棟の人員配置基準も、診療報酬点数表の入院基本料で定められている。処置で使用した医療材料や薬剤も、事務部からきちんと記載するように指示される。診療報酬点数表は、分厚く、難しい用語も多いため、敬遠してしまいがちである。そんな診療報酬について、病院経営とのかかわり、診療報酬点数表の構造、診療報酬を使った分析の3段階に分けて説明する。この章を読めば、診療報酬点数表もある程度理解できるようになり、診療報酬改定も怖くなくなること間違いなしである。

 奈須は、病棟の看護師長として、病院経営に参画できる管理をするためには診療報酬のことを知る必要があると感じている。そこで、石崎にマンツーマンの勉強会を開いてもらうことを依頼した。久しぶりに、石崎の特別講義である。

―病院経営と診療報酬のかかわり。

石崎:診療報酬の勉強をしたいとは、奈須も変ったね。立派な管理者だよ。さて、どこから知りたい?

奈須:診療報酬が病院経営に重要であることは、先日のセミナー(「師長の病棟経営数字」26.財務諸表と経営数字のセミナーに参加)で大体理解できたのよ。病院の収益の要因として、診療報酬が大きくかかわっていることを改めて理解したわ。そこで、より深く診療報酬が病院経営に影響を与えることと、病棟の管理に影響することについて知りたいと思うったわけよ。

石崎:本当に成長したね。優秀な生徒でうれしいよ。さて、本題に入ろうか。病院経営と診療報酬の関係だけど、病院収入のほとんどが診療報酬に関連している。(図27)を使って説明するよ。病院の収益構造を病院の全ての売上(総収益)から順々に砕いていくと、病院総収入は、医業収益と医業外収益、その他収益に分けられる。この総収入の中で、大半を占めるのが医業収益だよ。うちの病院だと90%くらいかな。

―石崎は、医業収益の部分に丸をつけた。

石崎:この医業収益は、外来収益という外来の収入と入院収益という入院の収入に分けられるんだよ。つまり、この医業収益は、診療報酬に関連する収入なんだ。

奈須:医業収入の基本は、患者数と単価からなり、診療報酬が単価を決めているのよね。

石崎:おー!すごいぞ。そのとおりだよ。びっくりするくらい成長しているね。この単価についてもいろいろからくりがあり、1日の単価や患者の症例別の単価といったものがある。例えば、外来の単価については、外来患者が来院1回あたりの単価と1人当たりの単価では見方が違うね。

奈須:初めて聞いたわ。

石崎:一般的には、外来単価というと外来患者の来院1回あたりの単価が使われているんだ。そして、外来患者1人当たりの単価は、外来で初診に訪れてから治療が終わるまでにかかった費用だよ。前者は、患者が1人来院したら幾らの収入になったかが分かる。別の見方をすると将来的に外来患者が1人増加すると幾ら増加するかもわかるんだ。大体病院の外来単価はあまり変動がないからね。例えば、外来単価が7,000円だったとすると、患者が1日100人増えれば、70万円の増加だよ。こうやって計算することができる。

奈須:へー、この指標って、こうやって使うんだね。

石崎:次に、外来の症例別の単価は、治療から治癒までの見方と1カ月当たりの見方がある。治癒できる病気と慢性的な病気による違いだね。この指標は、将来の収入予測と病院経営のために伸ばしたほうがよい症例といったものがわかるようになるんだ。例えば、糖尿病では、毎月1回来院で15,000円だとしたら外来1回当たりの単価は、15,000円だね。急性上気道炎であれば、初診とフォローの再診により2回で7,000円だとすると外来1回の単価は、3,500円となる。こういった様々な計算ができるようになるんだよ。

奈須:面白いわね。

石崎:それと、1つ質問したいんだけど。さっきの急性上気道炎で外来単価がA病院7,000円、B病院は9,000円の場合がある。何が違うと思う?

奈須は少し考え答えた。

奈須:B病院は、検査が多かったのよ。

石崎:そういうこともあるけど。違うよ。A病院は院外処方で、B病院は院内処方なんだ。たいてい同じ病気だと、単価も同じようになるよ。もし、同じ病気で単価が大きく違うとしたら、どちらかの病院が①算定漏れをしている、②不正請求をしている、③どちらかの病院が院外処方になっているとこの3点が原因かな。まあ、まれに変わった治療をしている場合もあるけどね(笑)。

奈須:そうなんだ。そういえば、同じ病気はどの先生も同じ検査と処方がされるもんね。

石崎:そうなんだよ。診療報酬も診療ガイドラインを基にしているので、診療ガイドラインから大幅に外れてしまうと支払ってくれないんだよ。

奈須:それは知らなかったわ。いろいろあるのね。入院の単価についてはどうなの?

石崎:入院も外来と考え方は同じだよ。入院単価は、患者の入院1日当たりの単価と疾病別の入院単価になる。入院1日当たりの単価は、患者が1人1日いた時の単価だよ。よく入院単価が1日30,000円なんて、会議で言われているでしょ。外来と同様に、患者が入院している日数が増えると入院の収入が増えることも予測することができるよ。疾病別の入院単価も外来と同様に、どういった疾病が増えることで収入がどれだけ増えるかが分かるんだ。

奈須:ところで、病院によって外来も入院も単価が違うけど、その原因は何があるの?

石崎:逆に、病院の外来と入院の単価に影響があるものって何があるか考えてよ。

奈須:検査と薬?

石崎:そういったものも重要だけど、単価に影響があるのは、病院の特性だよ。

奈須:病院の特性?

石崎:病院の特性とは、病院が急性期病院か慢性期病院、どの専門に特化しているかといったことだよ。診療報酬の額は、疾病によって違うんだよ。あとは、平均在院日数が短くなると単価が高くなるんだ。

奈須:そういわれてみればそうね。病気によって治療法が違うものね。平均在院日数が短くなると単価が高くなるのは、以前の説明(「師長の病棟経営数字」4.病棟収益に直結する平均在院日数の仕組み)を覚えているので大丈夫よ。

石崎:そうだよ。だから、診療科の構成によって、単価は違うと思っていてね。うちの病院でも、外科病棟と内科病棟では単価が違うでしょ。これは、外科が手術という大きな点数が算定できることと、内科系の診療科と比較して平均在院日数が短いことが理由だよ。

奈須:そうすると病院や病棟の特性によって、妥当な入院単価というのがあるということね。

石崎:そういうことだよ。

―奈須は、診療報酬と管理についての話題に切り替えた。

奈須:診療報酬と管理って関係があるの?診療報酬というと収入が関係していて、管理と結び付かないような気がするのよね。

石崎:そうだね。取り漏れしないように、きちんと診療報酬点数を算定することも管理だけど、診療報酬と管理で結びつくのは、診療報酬の施設基準かな。

奈須:施設基準というと、入院基本料の10対1とかの施設基準?

石崎:そうだよ。診療報酬点数表について、詳しくは別の日に説明するけど、入院基本料の施設基準は、勤務表と深くかかわっているよね。

奈須:1日当たりの人数とか、夜勤の72時間以内のこと?

石崎:そうなんだよ。その人員配置って、診療報酬点数表に細かく定められているんだ。だから、看護師が退職しないように労働環境の改善や、夜勤に入れる人を優遇するようにしていんだよ。奈須も師長として、看護師が退職しないように気を配ったり、72時間を超えないようにしているでしょ。これって、立派な管理でしょ。

奈須:確かに、そうね。でも、診療報酬点数表のために管理をさせられていると思うとすごく嫌な感じね。結局、お金のための管理なのかな?

石崎:そう思うかもしれないけど、診療報酬点数って、患者のためや働く看護師のために作られているんだよ。患者のための入院基本料7対1であって、看護師の労働環境のための夜勤72時間以内なんだよ。そのことに、お金が後からついてきたと考えてよ。

奈須:そう考えればいいのね。

石崎:その他にも、診療報酬に直結している褥瘡の管理や安全管理、NSTなんかも管理だよね。こんなことにも1つ1つ規定してあるのが診療報酬点数表なんだ。ただ、診療報酬点数表は国からの文書だから、堅苦しくて読みづらい作りになっている。だから、敬遠されているんだと思う。おれなんか、慣れてるから読みやすいけどね。

奈須:今日は、これまでにして、明日も教えてね。明日は、診療報酬点数本の読み方を教えてよ。

 診療報酬点数表は、聞きなれない言葉や法律と同じような独特の言い回しがあります。そんな文章を読めるようになるには、少し時間がかかります。もし、診療報酬点数表について分かるようになりたいとしたら、時間をかけ用語になれることかもしれません。