SCENE8 DPC/PDPSと疾病管理に病院の将来を見る 病気の過程に応じた機能分化

 国民の医療費の増加は、医療政策を変化させ、医療のしくみを徐々に変化させつつある。急性期医療は、DPC/PDPSという診断群別の包括支払いの方向へと変化させ、医療機関をこれまでの治療中心のサービス提供から予防医療も含んだサービス提供へと変化させた。医療機関の将来を予測する上では、これらDPC/PDPSや予防医療の導入された背景や原理について知ることが重要なのある。

 石崎は、「10年後の日本総合病院」という題でのレポートを上げるように院長から指示されている。そこで、あちらこちらから資料を集めたり、インタビューを行ったりしていた。今日は、隣町の病院の大木企画室長を訪ねている。(「師長の病棟経営数字」16.外来と病棟の収益改善)

石崎:大木さん、いつも講演などでお世話になっています。

大木:石崎くんは、勉強熱心だね。地域では、評判だよ。うちの病院に、スカウトしたいよ。どうだい?

石崎:光栄です。まだまだ修行の身ですから、もっと成長したらお世話になりたいと思います。

大木:将来期待しているよ。さて、今日は、10年後の医療業界について聞きたいと言うことですね?逆に、石崎くんは、10年後の医療業界がどのようになっていると思いますか?

石崎:10年後は、医療機関の機能分化が進み、淘汰される医療機関が進むと思います。急性期医療はDPC/PDPS、慢性期医療は慢性期の包括支払い、外来医療は診療所が担う状態になると予測します。こんな漠然とした感じにはわかるのですが、はっきりとしたイメージにはなっていません。

大木:そうだね。漠然としているね。

―大木は、紙に病気の過程(図26)を書き出した。

大木:この図を見てどう思う?

石崎:何か医療政策が見える気がします。

大木:そうだね。①、②、③のところが医療政策のポイントだよね。健康から病気、病気が悪化して重症化したり、合併症を抱えたり、慢性化したり、その後、亡くなっていく。①から②、③と徐々に病気が進んでいくと医療費もかかるよね。このように、徐々に病気が進んでいくと医療費もかかるよね。このように、段階に応じて病気を単純化してみることもできる。そういえば病気って、健康な状態からいきなり病気になるのではないよね。生活習慣が悪いから糖尿病になったりするんだよね。これって、医療政策で何か思いつかない?

石崎:特定健診と特定保健指導ですか?

大木:そうだよ。①のところが、健康増進と生活習慣の改善という特定健診と特定保健指導に当たるんだよ。②はどうかな?

石崎:生活習慣病管理料や重症化予防に関する管理料ですか?

大木:そうだよ。そういった感じで、医療政策が作られ、診療報酬に反映されているんだ。③は、これまでは色々議論されてきたけど、緩和ケアといったこともできるようになっている。次に、考えたいのが、①までをどのように管理するかだよね。①までは、今のところ、食育や禁煙、運動をしようといったことが、社会的に行われているね。ちょうど、健康増進法を受けて健康日本21なんかがそうだ。次に、①から②のところでは、安全な医療の提供と医療の質の向上、医療技術の開発といったことが行われている。だから、急性期医療の質の向上にDPCが期待されているんだ。また、①から②の医療管理次第では、重症化や合併症を防ぐことができるので、ここでどのような医療を提供するかはすごく重要なんだよ。②から③は、病気を悪化させないような管理が求められるよね。そして、ポイントは、①までと①から②、②から③と病気のステージが進むたびに一人当りの医療費が高くなっていくことにもある。糖尿病なんかは典型的な例だね。生活習慣が悪いと①を超えて糖尿病になり、血糖のコントロールが悪いと②を超えて、糖尿病性腎症になったりする。そうすると、透析の状態となり医療費がすごくかかるようになる。これって、患者のQOLにとってもよくないし、医療費も増大してしまう。そんなことがあるので、健康から時から病気のそれぞれのステージに合わせて管理しようということなんだ。これって、疾病管理(Disease Management)と言われ、今後はこういった健康から病気の過程をどのように管理するかがポイントになるんだよ。

石崎:なるほど。そうすると病気の進行過程に合わせて、病院は機能分化していくということですね。

大木:どのように役割分担していくかは、地域の競合医療機関を勘案しながら考えないといけないと思うんだ。それと、DPC/PDPSの話をしたけど、DPC/PDPSは医療の質を向上させることと、医療費の管理を目的に導入されているんだ。DPC/PDPSは、診断群分類による包括支払いとすることで、医療を可視化し、必要な医療行為を選別するようにしなければいけない。あまり、医療行為を行わなければ医療の質が悪くなる。逆に、医療行為を行い過ぎると医療機関の負担が大きくなる。これを各医療機関に判断させているんだ。質を上げようとする仕組みについては、各医療機関を競争させるようにアウトカムを公表したりしているんだよ。これが、DPCが導入されている意義なんだ。だから今後は、どんどん努力しなければ医療機関も経営が厳しくなるから大変だよね。

石崎:そうなんですね。患者もアウトカムは気にしていますからね。本日は、ありがとうございました。また、相談に乗ってください。

大木:いいですよ。頑張ってください。

 日本の医療がどのようになっていくかは、患者にとって良い医療と適正な医療費のあり方を考えれば、おのずと方向性が分かります。この方向性が分かれば、地域の特性を加味して、病院の将来を予測できるはず。病気の進行過程を管理するという視点が重要です。