医療機関の建物は、導線が長く働き辛くなったり、患者の安全を守りにくい状態になってはいけない。そのため医療機関の建物には、効率性と安全性を考えたさまざまな工夫がされている。ここでは、医療機関の建物について、災害対策と併せて紹介したい。
最近、洪水や地震などの災害が多く発生している。そのような中、院長、看護部長、事務部長が推薦した外科医の山本、薬剤師の岡田、医事課の石崎、看護部の奈須を中心に、災害時の対策や災害マニュアルを作るための会議が本日開かれている。
山本:院長から、当院としてのBCPの一環として災害対策をまとめるように指示されています。本日は、報告書と災害時のマニュアルをまとめるための議論を行い、来月末には、病院の各部門に配布したいと思います。それでは、まずは何から議論すればいいですか?
石崎:まずは、災害の種類とレベルについて考える必要がると思います。また、職員間の連絡・通信手段や職員の行動指針、医薬品や医療材料の調達などについて決める必要があります。
山本:そうだね。結構大変だね。まずは、地震から議論しようか。
奈須:以前、病院で言われていたのは、地震などの災害が起こったら、家族の安否確認を行ってから病院に来るようにということだったはずです。自信が起きても病院の建物は大丈夫なんですか?
石崎:病院の建築は、建築基準法と医療法の施設基準に違反しないように建設されている。地震などの災害が起こった時に患者の安全を守り、災害時のけがなどで搬送される患者さんのために、さまざまな工夫がされているんだよ。例えば、赤いコンセントの意味は、皆さん知っていると思いますが・・・。
岡田:コンセントの色って意味があったの?
石崎:岡田さん、本気で言っていますか?赤いコンセントは無停電電源で、電気の供給が泊まった時には、赤いコンセントからだけ電源を取ることができます。赤いコンセントの中には、電源の供給が止まったら一時電圧が落ちてから自家発電に切り替わるものと、電圧が落ちずにずーっと電気を供給できるものがあります。これは、病院によって違います。
岡田:赤いコンセントは電圧が安定しているからパソコンを使う時にいいよと聞いたことがあります。ところで、自家発電に切り替わるのに電圧が落ちないのは、どんな仕組みですか?
石崎:それは、UPSという無停電電源装置がコンセントにつながっているのです。コンピュータのサーバーは、無停電電源装置から電源を取っている場合が多いですね。停電になると、まず自動的に無停電電源装置に切り替わります。この無停電電源装置は、30分から1時間しか保たず、その間に自家発電装置が作動します。ちなみに、自家発電装置も6時間から24時間程度した保ちません。当院の自家発電装置は12時間のタイプです。ちなみに、災害拠点病院だと72時間自家発電で運用できることが求められています。
山本:水はどうなの?
石崎:受水槽があるので、その分だけです。もし災害が起こったら、節水することになり、24時間は保たせたいと思います。ただし、阪神淡路大震災の時には、受水槽の配管が切れて病院に水が供給できなかったということもあるので、気をつけなければなりません。透析患者さんは、水が生命線になります。
山本:食料の備蓄と医薬品と医療材料は?
石崎:食料は、非常食と飲料水を3日分は備蓄しています。医療材料は、業者に確認が必要です。
岡田:過去の事例からすると、医薬品と医療材料、在宅酸素についてはは、業者が1日後にはさまざまな手段で搬送したといった報告があります。ですから、24時間が勝負です。つまり、電気や水といったライフラインや食料も24時間保てば、大抵は大丈夫です。これも報告からですが、新しく建築された病院では、無停電電源や自家発電で72時間電気を供給できたり、水も地下水槽に備蓄することにより、2日以上供給できるそうです。災害拠点病院では、廊下にまで酸素などの配管がしてあるので、廊下も病室として使用できるようになっています。
山本:そうしたら、報告書のドラフトは岡田さんと石崎さん、マニュアルは私と奈須さんで作ります。2週間後までに、私宛にメールを送ってください。それでは来月に会議を行い、そこで報告書とマニュアルを完成させましょう。
ー会議が終わり、病院の施設についてもう少し聞きたいと思った奈須は、石崎を捕まえて質問した。
奈須:病院の施設について、知っていた方がいいことはほかにある?
石崎:災害時のことではないけど、空調のことかな。病棟の空調は、廊下が陽圧で病室が陰圧となっているんだよ。そうすると廊下から病室へ空気が流れるので、病室からの悪い空気が病棟全体に広がらないようになっている。手術室も同じようなしくみを利用しているよ。これから来客があるんで、また今度教えるよ。
病院の建物の工夫も知っていないと有効利用できませんし、いざという時に困ることになります。