SCENE4 混合診療のナゾ・・・ 患者は治療方法を選べない?

 2018年の国民医療費が、43兆円を超えた。1961年に国民皆保険制度ができてから、医療における保険制度について、さまざまな議論がなされている。また、DPC/PDPSによる診断群別の包括支払い方式や、P4Pと言われる治療成績と診療報酬の連動など、さまざまな試みがなされている。そんな中、混合診療は医療保険を救う手段だと言われている。混合診療とは、治療時に保険診療と自費診療が一緒に行われることである。

 奈須が所属している病棟の末期がんの患者の家族から、「未承認薬を使用したい」との相談が主治医にあった。早速、病院内の関係者が集められ、会議が開かれた。会議には、外科の山本部長、薬剤師の岡田、医事課の石崎、そして奈須が集められた。

山本:昨日、外科の大腸がん末期の入院患者さんの家族から、”未承認薬を使用したい”と言う相談がありました。この患者さんは、企業の社長でお金に不自由はなく、個室に入院しています。家族によると、”少しでも望みがあれば、アメリカから抗がん剤を輸入して治療してみたい”とのことです。ここで、問題がいくつかあります。まずは、これまでその薬を院内で使ったことがないため、管理をどうするのかといったこと、もう一つは費用の面です。薬剤の管理については、岡田さんに調べてもらっているので、後で報告してもらいます。薬剤の費用の面は、石崎くんに聞きたいと思います。これって、混合診療になるのかな?じゃあ、まずは岡田さん、薬の説明をお願いします。

岡田:この薬については、日本語の文献が少なく苦労しました。PubMedで集めた文献のコピーを皆さんに渡します。日本では、この治療が行われていないので、慎重に進めなければなりません、レジメンは、来週中に取り寄せます。ところで、薬剤投与前の遺伝子検査と薬の入手は、どのようにしますか?

石崎:薬の入手方法が一番重要です。病院で入手し、治療するとなると、薬代は患者に請求できません。薬代を請求するとなると、混合診療になります。

山本:患者さんが全部負担するのは、避けたいな。

石崎:山本先生、ちなみに抗がん剤を使用する前に、遺伝子検査をすることになっていますが、これはどうしますか?これも保険収載されていないので、混合診療になります。

山本:これは困ったな。遺伝子検査は仕方ないか。石崎くん、院長に言っておいてくれる。

石崎:先生から直接院長に伝えてください。私が怒られます!

山本:明日伝えるよ。ところで、薬剤の投与を来週にしたいので、岡田さん、仕入れをよろしく。

岡田:来週に間に合うか、業者に聞いてみます。奈須さん、高額で簡単に輸入できない薬だから、間違えないようにね。

奈須:間違えないように、私が責任を持ちます。

ー会議終了後、奈須は混合診療について石崎に聞いた。

奈須:混合診療はなぜいけないの?先進医療は混合診療じゃない・

石崎:実際には、混合診療を行なっているね。先進医療は、保険外併用療養費の評価療養という制度で、実質的に混合診療を行っている。この保険外併用療養費の制度は、評価療養と選定両用に分かれる。評価療養とは、①先進医療、②医薬品の治療に係る診療、③医療機器の治療に係る診療、④薬事法承認後で保険収載前の医薬品の使用、⑤薬事法承認後で保険収載前の医療機器の使用、⑥適応外の医薬品の使用、⑦適応外の医療機器の使用に対する診療と保険診療、選定療養とは、①特別な療養環境の提供、②予約診療、③時間外診療、④200床以上の病院の未紹介患者の初診とさいしん、③時間外診療、④200床以上の病院の未紹介患者の初診と再診、⑤制限回数を超える医療行為、⑥180日を超える入院などについて、と規定されているんだよ。

奈須:何で、こんなに細かく規定されているの?病院がいいと思えば、保険診療と自費診療を一緒にやってもいいと思うけど。

石崎:そこが問題なんだよ。患者さんは、治療方法を選べないからね。

奈須:最近はムンテラも確実にされているから、選択しているはずよ。

石崎:そうはいっても、”あなたのためだから検査した方がいいよ”と言う強引な先生っているだろ。例えば、奈須が他の病院dねがん末期だと宣告され、保険診療では治療法がないけど、自費の診療であれば治るかもしれないと言われたらどうする?

奈須:そう言われたら、自費で治療するかもね。

石崎:この時、例えば怪しい健康食品を勧められたら?

奈須:確かに、経営に困って良心を失った病院なら、そんなこともやるかもね。強く勧められたら、患者さんは断れないだろうね。

石崎:だから国は混合診療を解禁せずに、先進医療で一部解禁して、エビデンスを募ったり、保険の承認を素早くできるように体制整備したりしているんだよ。

奈須:なるほどね。自費診療は、治療効果が出るか分からないから、勧められないのね。入院して、健康食品を売りつける病院が出てきたらやだもんね。混合診療も一長一短ね。

 混合診療を推進すべきかどうかは、難しい問題です。