SCENE1 医療政策の超イロハ 病院が置かれている現状と今後を知る。

 臨床現場に従事している医師や看護師は、医療政策に疎くなりがちである。一方で、病院長や看護部長、事務長は、医療政策に詳しく、感心させられることが多いのではないだろうか。病院経営は医療政策により大きく変化する。そして、社会や政治が変化することは、医療政策にとっての転換点となっている。医療政策については、ある程度予測することは可能である。現在と未来の医療政策の変化を、理解・予測し対処できるかどうかが、優秀な管理者の条件であることは間違いない。病院の将来は、管理者の判断力にかかっているとも言える。

 奈須が齋藤部長に呼ばれ、看護部長室へ行く、看護部長室へ入ると齋藤部長と根田師長が、今後の医療政策について石崎医事課長からレクチャーを受けていた。

奈須:失礼します。

齋藤:奈須さん、早かったわね。

奈須:今よろしいですか?

齋藤:ちょうど、石崎くんの話を聞いてほしいと思っていたところなのよ。

奈須:医療制度のことですね。何だか難しそうですね。

齋藤:石崎くん、続けてもらっていいかな。

石崎:現在の医療政策を外来医療と入院医療に分けて説明すると、外来医療(図23)には、外来から入院、入院から外来への紹介において、かかりつけ医と地域医療という背景があります。逆に、入院させず外来で医療を行うかといったこともあり、日帰り手術や術前検査を外来で行うこと、在宅医療の促進も一般化してきています。

 一方、入院医療(図24)は、急性期医療、急性期後から慢性期医療までの医療、慢性期医療、回復期医療といった流れができつつあります。急性期医療で終わる病気もあれば、急性期医療から慢性期医療へと流れる病気もあります。高齢者医療は、この流れになっていると思います。現在の医療政策では、この慢性期医療は、どんどん在宅医療や介護の分野に侵食されつつあります。これから入院による慢性期医療を病院が担っていくことは、少なくなると予想されます。

 リハビリテーションを中心とした医療もどんどん充実してきています。回復期医療の理想は早期の社会復帰となっています。これから回復期医療については、急性期医療に近づき、急性期からのリハビリテーションを提供していくこととなると考ええられます。

 ここで質問ありますか?

根田:石崎くん、今の説明では触れていなかったけど、これからDPCは、どのくらい浸透していくと予想していますか?

石崎:さすが、根田師長ですね。(図24)の入院医療の図に書き込むと、急性期医療はDPC、急性期後から慢性期医療までは地域包括ケア病棟入院料と回復期リハビリテーション病棟入院料、慢性期医療は療養病棟入院基本料とすでに入院料が包括化されていることがわかります(図25)。それと、DPCで算定している病院と準備病院の病床数を合わせると、医療法上の一般病床の大半をDPCが占めるようになっています。このことを考えると、DPCは急性期病院にとって避けられないことは間違いないでしょうか。

齋藤:それにしても、気づいたらほとんどの入院料が包括になっていたんだね。

石崎:これまで入院医療をどのようにドクターフィー(Doctor Fee)とホスピタルフィー(Hospital Fee)に分けていくのかといったことがずーっと議論されてきましたが、そろそろ日本の入院医療もドクターフィーとホスピタルフィーがアメリカのように分かれるのではないかと思います。

奈須:ドクターフィーとホスピタルフィーについて、簡単に説明してもらえると嬉しいなあ。

石崎:ドクターフィーは、医師の技術料的な部分だよ。代表的なものは手術の報酬かな。ホスピタルフィーは、病院で提供するサービスの費用と考えると分かりやすいかもしれませんね。なぜこのように分かれているかは、話せば長いんだけど、アメリカの医療を見習っているからなんだ。アメリカは、病院があり、医師がそこに来て手術をする。病院に雇用されていないので、ドクターフィーとホスピタルフィーに分かれているんだ。日本もアメリカの医療を見習っているため、そのように医療政策が進んでいるんだよ。

齋藤:そろそろうちの病院でもDPCについて考えないといけないね。次の経営会議で議論してみよう。

 入院料の包括化の流れは止まりません。急性期医療イコールDPCという時代です。