SCENE4 師長になっての最初の難関!人の管理 いろいろなスタッフのやる気を引き出す

 病棟での仕事のパフォーマンスを左右するのは、スタッフのやる気である。一方、スタッフがやる気をなくせば、病棟から活気はなくなる。活気がなくなれば、不満の増加や病棟の看護の質低下、インシデントやアクシデントの増加の危険性が出てくる。逆に、スタッフにやる気がみなぎっていれば、何でもできる気がしてきて、病棟の雰囲気がとてもよくなる。

 病棟により雰囲気が違うことは、これまで仕方のないことだと思っていた奈須は、最近、管理者により病棟の雰囲気が変化することに気がついた。根田師長の病棟と鈴本師長の病棟の雰囲気の違いは、管理者の違いではないかと思うようになってきた。スタッフのやる気が病棟の雰囲気に与えるのではないかと仮説を立て、スタッフがやる気がでるような方法を斎藤看護部長に教えてもらった。

斎藤:奈須さん、今日は何の相談?

奈須:病棟の雰囲気作りと職員のやる気を引き出すには、どうしたらいいのか教えていただきたくて来ました。

斎藤:そんなに焦らなくても、今でも十分だと思うわよ。

奈須:もっと、いい病棟にしたいんです。スタッフがもっとやる気を出せば、仕事が楽しくなり、今よりストレスも少なくなると思います。以前、私が管理者になってすぐの時は、ストレスがたまりました。正直、辛かった時期もありました。しかし、今では師長という仕事が楽しくなり、休みの日もどう管理したら患者さんにとってよいことが起きるのかと考えるようになりました。楽しくて、いつでも管理のことを考えるようになったのです。

斎藤:それは、すごい成長だね。私もうれしいわ。それでは、私が以前に動機づけ理論についてまとめたノートを貸しましょう。

奈須:動機づけ理論ですね。なんかすごくわくわくします。

―奈須は、ノートを受け取った。斎藤部長がノートに書いてあるマズローとハーツバーグの動機づけ理論について簡単に説明する。

斎藤:このマズローの動機づけ理論は、人間の欲求を5つの階層に分類することにより、その人に合った欲求を満たしてあげることで動機づけをしていくということなの。(図3)

奈須:マズローは、以前に原さんに簡単に教えていただきました。(病棟経営数字24病棟をうまくまとめる極意)マズローは、個々人の動機づけにいいのですが、組織全体での動機づけを考えると物足りないと感じています。

斎藤:集団の動機づけを考えるとハーツバーグの動機づけ理論がいいわよ。ハーツバーグは、動機づけ要因(表1)を2つに分類しているの。簡単に説明すると動機づけをプラスとマイナスに分けているのよ。プラス要因は、満足を感じるための要因であり「動機づけ要因」としている。目標の達成や承認されること、責任を持たされることが動機づけになるとしている。マイナス要因は、不満の種となる要因であり、「衛生要因」としている。給与や職場の人間関係、組織の管理ができていないことは、不満要因になるとされているのよ。

奈須:確かにそうですね。責任を持たされるとやる気が出ますし、褒められることでもやる気がでます。仕事の目標が達成されれば、さらにやる気がでますね。一方、給与に対しては、不満の声の方がよく聞く気がします。不満がでる時は、大抵、「他の病院よりボーナスが低い」「夜勤手当や資格手当が低い」といったことを言われます。確かに、「給与が他の病院より高くてよかった」という話は聞きませんね。スタッフが退職する時は、職場の人間関係が多いと感じます。さらに、病棟の管理者がしっかりしていないと離職率が高くなる気がします。マズローの動機づけ理論は、スタッフ個別の管理、ハーツバーグの動機づけ理論は組織管理と考えるのがいいですね。

斎藤:それだけ、理解できればあとは、今渡したノートと本を読めば自分で理解することができるわね。

―自宅で、斎藤看護部長のノートを見ながら

奈須: 私が師長としてできることを考えなければならないわね。病棟の管理は、マズローの動機づけ理論とハーツバーグの動機づけ理論をうまく利用しないといけないわね。そのためには、権限の範囲から自分のできることを考えなければいけないわ。それぞれの動機づけ理論の共通する部分をうまく利用することがいいのかな。やる気の創造として、所属したいと思われる組織作りと職員の業績を評価するシステムをつくることがいいのかもしれない。所属したいと思われる組織づくりは、教育体制がしっかりとすることによってスタッフ個人が成長できることとキャリア支援かなぁ。働きやすい職場環境も重要で、病棟が安定的だと思える雰囲気づくりと職場がまとまっていると思える一体感かな。コミュニケーションを良くするために飲み会もうまく活用した方がいいかもね。

 組織のやる気を引き出すことができれば、管理職としての役割のほとんどを果たしたといっても過言ではありません。そのためには、どのように動機づけて仕事のやる気を引き出し、やる気をそがない組織にするか考えなければなりません。医療従事者は、動機づけがうまくいけば、自発的に質がよく、効率的に業務を進めることができつ特徴があります。