看護師長になってから様々な経験をし、管理職に慣れてきた奈須は、管理に関して極めたいと思うようになった。しかし調べてみると、中間管理職を教育するセミナーや書籍が少ないことにがっかりした。経営管理者を育てるためのトップマネジメントセミナーやMBA(経営学修士)といった病院長や看護部長、事務部長に対する教育コースはあるが、ミドルマネジャーである看護師長や主任、コメディカルの課長クラス向けの教育はあまりないのである。
そんな中、石崎や各部門の有志から病院の中間管理職で勉強会を行わないかと誘われた。日本総合病院の職員は、病院を良くするためモチベーションが高くなりつつある。経営が成功している病院は、トップマネジメント(病院経営者)だけでなく、ミドルマネジメント(中間管理職)がしっかりとしているのである。病院も企業体であるためトップマネジメントが方向性を示し、ミドルマネジメントが現場を動かしていくのである。このことに早く気づいた病院は、経営で成功し規模を拡大している。
一部の成功している病院グループは、ミドルマネジメントに対する教育に力を入れている。一方、多くの病院のミドルマネジャーらは、管理職になったその時に初めて管理を意識し始める。突然、十分な知識もないまま管理者を任命され、管理を実地で覚えなければならないわけであり、病院から教えられることもない。
これから病院経営の難易度が増して行くほど、病院の管理が重要となり、病院のミドルマネジメントの管理能力が必要なるのである。医療の質を左右する医療現場をどのようにしていくかは病院のミドルマネジメントである師長や主任の仕事であることは間違いない。
ミドルマネジメント向けの管理を学ぶ研修が必要性を感じ始めた奈須や石崎は、課長・係長クラスで毎月勉強会を行うことを約束した。そこで、まずは、マネジメントや管理とはどのようなことであるか話し合いをすることとなった。話し合いは、会議室で行いその後、居酒屋へなだれ込むこととなった。話し合いは会議室で行い、その後、居酒屋へなだれ込むこととなった。
石崎:本日は第1回の管理者研修にお集まりいただきありがとうございます。事務部からは私、薬剤部から岡田さん、看護部からは奈須さん、検査部からは山田さん、リハビリテーション部からは渡辺さんが参加することになっています。さて、まだまだ全員集まっていませんが、始めましょうか。
奈須:ごめんなさい。遅くなりました。申し送り中に緊急入院があって、私が入院の受け入れをしていたので遅くなりました。
石崎:医療機関の特徴的な事例ですね。奈須さん。
奈須:“さん”付けはやめてよ。嫌味ね。特徴的なことって会議なんかに、全員が時間通りに、集まらないこと?
石崎:そのとおりだよ。勉強会があるのに、時間が守れないということは管理者としてどう思う。奈須だけでなく、皆さんも考えてほしいと思います。
―5分経過し-
石崎:山田さんはどう思う?
山田:患者さんが来るのであれば仕方ないよね。
渡辺:おれはそうは思わないけど。
山田:なんで?
渡辺:管理者は、どのようなことが起きようとも対応できるように組織を作ることが仕事じゃないの?だから、先を読んで体制を整えたり、指示をすることが必要なのではないかな。
岡田:さすがだね。俺もそう思っているよ。
石崎:奈須さん、反論は?
奈須:そのとおりかもね。今日は、休みの人が多く、ちょうど急変もあったから人がいなかったのよ。それを私だけ勉強会があるから、皆に任せて出てくることができなかったのよ。
石崎:みんなすべて、管理者として正解だよ。
全員:えっ?
石崎:管理ということは、「システム化」と「バランス」、「臨機応変」といったキーワードに集約されると思います。ミドルマネジメントは業務などをシステム化し、業務効率を上げつつ何かあった時には臨機応変な対応をしなければならないといったことがあります。
岡田:確かにそう言われればそうだね。その中で、リソース(資源)の配分を適切にしていくということなんだ。
石崎:岡田さんの言うとおりです。
岡田:結構いい時間になったので、そろそろ2次会に行こうよ。
―居酒屋へ移動し、乾杯が終わり、皆が少し酔ってきたところで、斎藤看護部長と根田師長も激励に訪れた。―
石崎:斎藤部長、管理って何ですかね。
斎藤:石崎くんどうしたの?少し酔ってんじゃないの?
石崎:真剣なんです。管理を極めたいんです。
奈須:私も部長さんに聞きたいです。
斎藤:管理って、何って聞かれても色々あるけど、まずは、体当たりなのよ。私も失敗を重ねてきたし、管理者をやっていけど、これで極めたってないのよ。毎日、少しずつ前進して、管理職になっている気がする。昨年より今年、先月より今月、より自分が成長し、管理がうまくなっていればいいんじゃないかな。それと管理方法は、時代とともに変わるしね。昔、私は鬼の斎藤とも呼ばれていたのよ。
奈須:本当ですか?
根田:本当よ。当時は、すごく怖かった。斎藤部長が近くにいるだけで胃が痛くなるほどだったもの。
斎藤:私も管理は、体当たりだったのでそんな時もあったね。怖いと言われた時代は、成果が上がらなかったのは覚えているよ。
奈須:斎藤部長に、教えていただきたいのですが、管理の本質とは何ですか?
斎藤:難しい質問するね。ある意味すごくいい質問だよ。逆に、みんなに質問がある。
―斎藤部長が居酒屋のちらしに質問を書き出す。―
質問1―職場環境― ①仕事が暇だけど楽しい。 ②仕事が暇だけどつまらない。 ③仕事が忙しいけど楽しい。 ④仕事が忙しいけどつまらない。 |
斎藤:みんなだったらどの職場を選ぶ?
全員:③ですね。
斎藤:そうだね。③は、仕事に集中でき日々が充実している感じだね。そういった職場は、職員が生き生きとし、成果があがるようになるはずだよ。
斎藤:次の質問はどうなかな。
質問2―方向性の明示と理解― ①理念や方針が掲げられているが、覚えていない。 ②理念や方針を覚えている。 ③理念や方針を覚えているが、守っていない。 ④理念や方針が部門で掲げられ、理解されている。 |
奈須:④が理想だと言われています。でもなぜ、理念や方針を掲げる必要があり、理解される必要があるのですか?あまり深く考えたことがないので、気になります。
斎藤:今日は、あまり深く説明しないが、理念や方針というのは、職場で組織や職員が迷ったときのよりどころになるんだよ。迷ったときに判断する材料になるんだよ。
奈須:また教えてください。
斎藤:次の質問はどうかな。
質問3―管理者― ①師長や主任はいい人だが... ②師長or主任は、仕事に対して鬼だ。 ③師長or主任は、魅力があり仕事は厳しいが、ついて行きたい。 ④師長or主任は、上司に忠実だが部下のことは何とも思っていない。 |
奈須:③ですね。こんな上司が理想です。
渡辺:②も悪くないですね。
斎藤:③は理想的だね。②は、体育会系の理学療法士ならではだね、渡辺くん。ただ、②のような上司だと最初はいいけど、スタッフが長続きしないよ。
斎藤:次の質問は、2択。
質問4―組織― ①病棟or外来看護は、まとまりがある。 ②病棟or外来看護は、まとまりがない。 |
奈須:これは当然、①ですね。
斎藤:次はどうだい。
質問5―コミュニケーション― ①病棟or外来の部門内に知らない人がいる。 ②病棟or外来の部門内では、自分が理解され、皆のことをわかっている。 ③病棟or外来の部門内に派閥がある。 |
奈須:②がいいです。①は考えられないし、③の組織で働くのは嫌ですね。
斎藤:ちょっと皆さん、聞いてもらえるかな。質問1から質問5の質問が出そろったけど、どう思った?
渡辺:あたり前のことかもしれませんが、考えさせられました。自分がこのような管理をすれば良いということなのですね。逆の立場から考えれば、目指す管理の姿が見えてくるということが分かりました。
斎藤:そうなのよ。皆さんもわかりましたか。これから管理の仕事で結果を出してください。今日は、私がご馳走しましょう。
奈須:気づきを与えてもらったのに、逆に、我々が出します。
斎藤:私にご馳走するなら、仕事で悩んでいる後輩や部下にご馳走しなさい。
全員:ご馳走様です!
突然、管理をしなければならない立場になると、何から始めればよいのかわからなくなることがあります。もし、管理に迷ったら自分が上司に求める条件を考えてみてはいかがでしょうか。あなたも部下に同じ事を求められています。