17 交渉の基本 数字を示す重要性

 朝早くから鈴本師長が、看護部長のところで話し合いをしているようだ。朝の報告で看護部長室を訪れた時にも、結構激しい議論がされていた。どうも勤務表を組んでいて、人が足りないといったことのようである。鈴本師長が感情的になり、一方的に人を補充しろと言っているように聞こえる。なぜ、こんなに鈴本師長の要求が不快に聞こえるのだろうか?ちょうど、根田師長が看護部長室に来たので、根田師長と外で立ち話をした。

奈須:根田師長、鈴本師長は、どうしてあんなに感情的になっているのですか?

根田:話し合いをするときは、感情的になってはいけないのよ。論理的に、冷静に説明することが必要なのよ。部長室での話し合いは、鈴本さんが感情的になっているから話が進まないのよ。斎藤部長は、冷静に、なぜを繰り返しているけど、これは、鈴本さんの教育も兼ねてのことなのよ。

奈須:論理的に、説明するとはどういうことですか?

根田:論理的に、説明するということは、根拠をはっきりして、筋立てて説明することなの。師長会では、斉藤部長の説明にいつも納得していると思うよ。論理的に、説明されるとそういうふうに納得するものなのよ。それと、できるだけ具体的に説明することも必要かな。

奈須:例えば、どんな感じですか?

根田:病棟の看護師が足りないのであれば、「勤務表を組んでいて、夜勤ができる人がいないので、1人当たり、74時間になってしまいます。夜勤ができる看護師が1人いれば、70時間になります。」例えば、こんな感じで説明すれば、一人増やさないといけないことが納得できるよね。それをただ、足りないと要求すると、何人足りないのか、なぜ足りないのか分からない。そうすると、どこか違うところに問題があるのではないかと突っ込まれてしまう。そうすると、根拠をちゃんと説明できないので、感情的になってしまうと言う悪循環になってしまう。よくありがちなのが、病棟の皆が疲れているから人を増やしてほしいとか、病棟の機器が足りないから増やしてくれと言った要望があるけど、きちんと論理的に具体的に説明すれば、補充してもらえないことはないはずよ。私がいつも斎藤部長にひいきにされているように言われるけど、ちゃんと説明しているからなのよ。

奈須:そうなんだ。さすが、根田師長ですね。ところで、レスピレータの台数が病棟で足りないのですが、どのように交渉したらいいでしょうか。

根田:レスピレータであれば、先ず、病棟にある台数と1台当たりの1カ月に利用されている日数を出すといいね。また、病棟の1日当たりの平均利用台数が出せるといいね。大体、1年間のデータを使うといいわよ。ついでに、レスピレータの1日当たりの収入のシミュレーションを添付できると、誰も反対はないはずよ。ただし、が大幅に悪くないことが条件になるけど。収入のシミュレーションは、医療機器メーカーや医療機器納入業者に依頼すると作ってくれるわよ。

奈須:ありがとうございます。もう一ついいですか?看護師を増やす交渉をするには、どうすればいいですか。

根田:人を増やすのは、どの部門も難しいわね。収入が伸びたからといってすぐに増やしてくれるわけでもないしね。一番簡単なのは、看護師が増えると看護体制がグレードアップし、医療の質が良くなり、入院基本料が増えルので収入がアップする・・・。そんなことが人を増やすモチベーションとして最高ね。そうでなければ、業務を分解していって、この業務には、これくらいの人が必要で、人を1人補充すると残業が大幅に減りますと言ったことがあれば、いいと思うよ。

奈須:やっぱり、数字を提示するのが一番、論理的なのでしょうか?

根田:そうね。数字が一番わかりやすいからかな。次に、文献などの実例だね。

奈須:企画や提案をするための数字の計算の仕方で何かコツはありますか?

根田:企画や提案、要望といったものは、お金がかかることが多いので、お金を中心に数字をまとめるといいかもしれないね。医療機器を購入するときは、購入金額と患者の件数から採算が合うか計算するのよ。業者もそんな提案をしてくるしね。人を増やすことで難しいのは、人を増やしたことにより、収入が伸びないことが多いので、そこをどう説明するかが難しいのよ。人が増えると看護師が少し楽になるからといった理由では、理事長や事務長がOKしないよね。だから、人を増やせば、看護師が少し楽になり、離職率が下がる。結果的に、7対1看護体制が取れるといったことや、残業が減ると言った説明ができれば、増やしてくれるのはないかな。残業が減るという説明には、業務プロセスと業務量、増員した人をどの業務へ投入し、残業を減らす効果があるのかというような説明が必要かもしれないけどね。

奈須:すごく参考になりました。

根田:そろそろ、鈴本師長と斎藤部長の話は、終わったかな。

 管理職として、交渉や議論に慣れていないと感情的になってしまいがちである。そうならないようにするためにも、議論をするときは根拠をきちんとしておく必要がある。数字により交渉することが一番簡単であることは間違いない。これから交渉や議論を進めて行く時は、根拠を明確にしていただきたい。くれぐれも感情で交渉しないことを進めする。