中堅ナースの奈須直子(なすなおこ)は、日本総合病院に入職以来ずっと外科病棟に勤務している。最近は、副主任となり、褥瘡委員会やNSTの委員会でも積極的に発言している。患者が元気になり、退院するときに「ありがとう」と言われることが奈須にとってのやりがいだ。最近は、在院日数短縮の影響もあり、患者が本当に回復して退院しているのか、複雑な気持ちもある。再入院が増加傾向にある日本の医療政策に対して疑問を持っている。
○ある日、看護部長の斎藤とし子から内線が入った。
斎藤:今日、仕事が終わったら飲みに行こうよ。
奈良:突然どうしたのですか?
斎藤:最近、仕事を良くやってるから、ご褒美よ。
奈良:ありがとうございます。
斎藤:いつもの居酒屋に、19:00にいるから、よろしく。
○仕事が終わり、結局、居酒屋に到着したのは19:30であった。
奈良:遅くなりました。
斎藤:いいよ、いつものことだから。看護業務が時間通りに終わるようにしたいよ。
奈良:本当ですね。
斎藤:さっき、ビール頼んでおいたからね。
斎藤・奈良:かんぱーい。
奈良:部長さん今日は、何かあるんですか。
斎藤:やっぱりわかった?実は、外科病棟の原師長が3月末で、訪問看護ステーションの所長になるので、奈良さんを師長にしたいと思っているの。
奈良:・・・正直ビックリです。私以外にいい人がいるじゃないですか。
斎藤:病院の経営改善プロジェクトを知ってるよね。その中で、次世代リーダーの育成を積極的に行うことになったのよ。そ看護部からは、奈須さんを師長に推薦したいの。奈須さんが看護実践の道を究めたいと思っていることは、重々承知の上よ。本気で考えてほしいの。病院の将来も掛かっているし。
奈良:何日か考えさせてもらっていいですか。
斎藤:前向きによろしくね!
奈須は、かつての上司であった師長の根田広子(ねだひろこ)に、看護部長から師長に大抜擢の依頼を受けたことを相談した。根田は、奈良ののような存在だ。
根田:将来の自分のをどう考えているの?看護の専門職として看護を究めるのか、それとも、管理職として組織を動かしていくのか?
奈須:そう言われてもイメージが湧きません。
根田:簡単に説明すると1対1か1対多数ね(図1)。個人で患者に対して看護する力を付け、患者に対して結果を出すのか、組織として患者に結果を出すのかの違いよ。私は、一人の力に限界を感じて、組織で一人でも多くの患者さんに幸せになってもらいたいと思ったから師長になったのよ。
奈須:そう言われるとわかります。いいですね、そういう考え方。
根田:それに、働く環境の整備をすれば、一緒に働く人たちも幸せに出来るのよ。これって師長じゃないとできないよね。
結局、奈須は斎藤看護部長からの依頼を承諾し、師長になる決心をした。